Samsung–Netlist特許紛争が和解へ:メモリ特許がNVIDIA・Googleにまで及んだ理由
Samsung Electronicsと米国のメモリ技術企業Netlistの間で数年にわたり続いてきた特許紛争は、5年間の特許ライセンス、製品供給、技術協力契約により新たな局面を迎えました。
Netlistが2026年8月5日に公表した戦略的提携によると、Samsungはサーバー向けDIMMおよびHBM技術を含むNetlistの特許ポートフォリオにアクセスし、NetlistにはDRAMおよびNAND製品を供給します。両社は、相互に係属中の法的手続を和解により終結させ、相互免責を行うことにも合意しました。
本件は、単なる半導体特許訴訟の終結事例にとどまりません。1つのメモリ部品をめぐる特許紛争が、その部品を使用するグローバル企業や完成品サプライチェーン全体の法的リスクへ拡大し得ることを示しているからです。
特に、米国国際貿易委員会(ITC)の調査対象には、Samsung Electronicsの関連会社だけでなく、Google、NVIDIA、Broadcom、Super Micro Computerも含まれていました。メモリ技術から始まった紛争が、AIサーバーとデータセンターを構成するグローバル・サプライチェーン全体へ広がり得る構造でした。
もっとも、ここで区別すべき点があります。公表された和解は、SamsungとNetlistの間で係属中の法的手続を相互に終結させるものです。ITC調査に名を連ねた他の被申立人に関する手続まで同時にすべて終結したと断定することはできず、各被申立人のその後の手続は個別に確認する必要があります。
Pine Patent 特許法律事務所は、本件から、今後の半導体・AI産業の特許戦略を理解するうえで重要なポイントを整理します。

Samsung DRAMから始まったITC特許紛争
米国国際貿易委員会は2026年7月15日、特定のDRAMデバイスならびにそれを含む製品および部品について、Section 337調査を開始しました。事件番号は 337-TA-1511 です。
調査は、Netlistが2026年6月16日に提出し、同月24日と25日に補充した申立てに基づいて開始されました。Netlistは、Samsungの特定のメモリ製品およびそれを含む製品が自社の米国特許クレームを侵害すると主張し、限定的排除命令と停止命令を求めました。
注目すべきは被申立人の範囲です。
- Samsung Electronics Co., Ltd.
- Samsung Electronics America, Inc.
- Samsung Semiconductor, Inc.
- Google LLC
- Super Micro Computer, Inc.
- NVIDIA Corp.
- Broadcom Inc.
ITCによる調査開始は、特許侵害が確定したことを意味しません。ITCも公式発表で、調査開始段階では事件の本案について何らの判断もしていないと明記しています。その後、行政法判事が証拠審理を行い、Section 337違反の有無について初期決定を下し、委員会の審査を受けることになります。
それでも、ITC特許紛争には、通常の米国連邦裁判所の特許訴訟とは異なる実務上のリスクがあります。
連邦裁判所の訴訟では損害賠償が主要な救済となることが多い一方、ITCのSection 337手続では、侵害および輸入に関する要件などが認められると、該当製品の米国への輸入を制限する排除命令が出される可能性があります。事案によっては、輸入後の販売などに対する停止命令も問題となります。
グローバル製造企業にとって、米国市場への製品輸入が制限される可能性は、損害賠償以上の事業負担となり得ます。製品発売、顧客への供給、在庫運営、市場シェアに直接影響するためです。
このため、ITC手続は、特許権者がグローバル製造企業やサプライチェーン企業に対して利用する強力な権利行使手段と評価されています。
部品特許が完成品企業のリスクへ転化する構造
本件の核心は、特許の対象と製品のサプライチェーン構造にあります。
半導体とAIサーバーは、1社の技術だけで完成するものではありません。GPU、CPU、DRAM、HBM、NAND、ネットワーク半導体、コントローラー、各種インターフェース技術が組み合わさって1つのシステムが構成されます。
したがって、特定の重要部品が第三者の特許を侵害するとの主張が提起されれば、問題は部品メーカーだけにとどまらない可能性があります。その部品を搭載した製品を製造し、米国へ輸入・販売する企業も紛争の影響を受け得ます。
本件で示されたサプライチェーン構造は、次のように整理できます。
Netlistの特許主張 → Samsungのメモリ → Google・NVIDIAなど被申立人の製品 → 米国市場
特許紛争の出発点はメモリ技術ですが、そのメモリを搭載したサーバー、アクセラレーター、データセンター・システムにまで紛争範囲が拡大し得たのです。
もちろん、被申立人に指定されたという事実だけで各社の特許侵害が認められるわけではありません。重要なのは、ITC手続の構造上、重要部品とそれを含む下流製品が1つの調査の中で併せて扱われ得るという点です。
これは、企業の特許リスク管理が自社開発技術の検討だけで終わってはならないことを示しています。
特に、半導体、電子、自動車、通信機器、AIサーバーのように、多数の部品と技術が組み合わされる産業では、調達する重要部品自体の特許リスクまで管理する必要があります。従来のFTO(Freedom to Operate)調査も、自社技術と完成品だけを見るアプローチから、重要部品とサプライチェーン構造を併せて考慮する方向へ拡張する必要があります。
ITC調査開始から3週間後に発表された5年間のライセンス
ITC調査開始から21日後の2026年8月5日、NetlistはSamsungとの5年間の戦略的提携を発表しました。
公表内容によれば、今回の取引は単なる1件の特許ライセンス契約ではありません。
- 5年間の特許ポートフォリオ・クロスライセンス
- SamsungからNetlistへのDRAM・NAND製品の供給
- 次世代メモリ技術に関する協力
- SamsungとNetlistの間で係属中の法的手続の和解および相互免責
Samsungは、サーバー向けDIMMとHBM技術を含むNetlistの全特許ポートフォリオにアクセスし、NetlistはSamsungのDRAMおよびNAND製品の供給を受ける関係を構築しました。
数年にわたり特許訴訟の当事者として対立してきた2社が、ライセンス、供給契約、技術協力を基盤に事業関係を再設計したのです。
これは、特許訴訟の本質を理解するうえで重要な事例です。
企業間の特許紛争の目的は、必ずしも最終判決を得て相手方の侵害を確認することだけではありません。特許訴訟とITC手続は、ライセンス条件の設定、供給関係の再編、競合他社または取引相手に対する交渉力の確保を図る戦略的手段として利用され得ます。
特許戦略を立てる際、勝訴可能性だけを基準に判断してはならない理由です。企業は、訴訟で確保しようとする事業上の結果、ライセンス構造、供給関係、将来の市場アクセスまで併せて検討する必要があります。
数年にわたり続いたSamsungとNetlistのメモリ特許戦争
2026年の和解は、短期間に生じた紛争の結果ではありません。
SamsungとNetlistの間では数年にわたり、メモリ技術に関する複数の特許訴訟と手続が進められてきました。関連する米国特許訴訟では、高額な損害賠償評決も相次ぎました。
Netlistの2026年第1四半期Form 10-Qによれば、2023年に米国テキサス州の陪審は、関連事件でSamsungの故意侵害を認定し、3億300万ドルの損害賠償を評決しました。2024年の別件でも、陪審は1億1,800万ドルの損害賠償を評決しました。同開示資料には、特許庁手続と控訴の結果によって、賠償金を回収できる可能性が影響を受け得るとの説明も含まれています。
したがって、2026年8月の和解は、個別の特許訴訟1件の終結というより、長期にわたる両社間のメモリ特許紛争を包括的な事業関係へ転換した出来事と評価するのが妥当です。
AIデータセンター市場の拡大に伴い、サーバー向けDRAMとHBMの戦略的重要性が高まっていることも、今回の和解の意味を大きくしています。
現在のAIコンピューティング環境では、メモリ帯域幅とデータ転送性能がシステム全体の性能を左右する中核要素となっています。これに伴い、HBM、サーバーDIMMおよび関連メモリ技術に関する特許の経済的価値と交渉力も高まっています。
第1の示唆:特許リスクはサプライチェーンに沿って移動する
本件の最も重要な示唆は、特許リスクがサプライチェーンに沿って移動し得るという事実です。
企業が自ら開発・製造した技術に問題がなくても、供給を受けた重要部品に特許侵害問題が生じれば、完成品メーカーや輸入業者まで影響を受ける可能性があります。
特にグローバル・サプライチェーンでは、1つの半導体が複数企業のサーバー、ネットワーク機器、AIシステム、データセンター製品に共通して使用されます。その半導体をめぐる特許紛争が、複数の顧客企業と完成品へ拡大する可能性があります。
したがって、海外へ輸出する企業は、自社製品の特許分析だけでなく、重要部品サプライヤーの特許紛争状況も継続的に管理する必要があります。
重要部品の供給契約段階では、次の事項を併せて検討することが望まれます。
- サプライヤーによる特許非侵害の表明保証
- 第三者との特許紛争発生時の通知義務と共同対応義務
- 防御費用と損害賠償責任の分担
- 免責の範囲と上限
- 代替部品の供給または設計変更の義務
- 販売・輸入禁止リスク発生時の在庫と納期の取扱い
特許問題は研究開発部門だけの問題ではありません。購買、サプライチェーン管理、法務、海外事業部門が共同で管理すべき企業リスクです。
第2の示唆:米国ITCを独立した特許戦略として理解する
米国市場へ製品を輸出する企業は、ITC手続を通常の特許訴訟と区別して理解する必要があります。
ITCは金銭賠償を判断する連邦裁判所ではありません。米国へ輸入される製品が米国内の知的財産権を侵害するかなどを審理し、要件が満たされれば、輸入を制限する排除命令などの救済措置を講じることができます。
輸出中心の製造企業にとって、このような市場アクセス制限の可能性は大きな交渉圧力となります。
特許権者がITCと連邦裁判所の訴訟を並行させる理由もここにあります。連邦裁判所では損害賠償を請求し、ITCでは輸入制限の可能性によって相手方の事業リスクを拡大する戦略を取ることができます。
米国市場への依存度が高い韓国の製造企業は、米国特許訴訟の対応戦略とは別に、次のようなITC対応体制を事前に整える必要があります。
- 米国の輸入主体と輸入記録の把握
- 問題となる部品を含む製品群と顧客の特定
- 国内産業要件および非侵害・無効の防御資料の早期確保
- 排除命令が出た場合の設計変更・代替調達シナリオ
- サプライヤー・顧客との共同対応および費用分担の仕組み
第3の示唆:特許訴訟の目標は判決ではなく事業上の成果
SamsungとNetlistの和解は、企業の特許戦略の目的を改めて示しています。
数年にわたる紛争は、5年間の特許ライセンス、製品供給、技術協力の仕組みへ転換されました。
特許は競合他社を攻撃する権利であると同時に、交渉を可能にする資産です。強力な特許ポートフォリオは、損害賠償の請求に利用できるだけでなく、クロスライセンスの確保、供給契約の締結、新たな事業関係の構築にも活用できます。
したがって、特許紛争で重要なのは単純な勝敗ではありません。
訴訟を開始する前に、最終的にどのような事業上の成果を確保するのかを定める必要があります。ライセンス収益、競合他社の牽制、市場参入の制限、クロスライセンス、サプライチェーンの安定化など、目的に応じて特許訴訟と交渉の戦略も変わります。
AI時代には「サプライチェーン特許戦略」が必要
SamsungとNetlistの事件は、AI・半導体産業の特許戦略が、個別技術中心からサプライチェーン中心へ変化していることを示しています。
AIサーバーの競争力は、GPUだけで決まるものではありません。GPU、HBM、DRAM、CPU、ネットワーク半導体、インターコネクト、各種メモリ技術が1つのシステムとして結合し、性能を生み出します。
したがって、重要部品1つに関する特許問題が、製品全体とサプライチェーンのリスクへつながる可能性も高まっています。
今後の企業の特許リスク分析では、次の問いを順に検討する必要があります。
- 特許はどの技術と機能に適用されるか。
- その技術はどの部品に実装されているか。
- その部品はどの完成品とシステムに搭載されるか。
- その製品は誰が製造・輸入・販売し、どの市場へ供給されるか。
- 紛争発生時に、サプライチェーンのどの企業まで影響を受けるか。
- 排除命令や販売禁止のリスクに備え、設計変更・代替調達が可能か。
このような分析が先行して初めて、実質的な特許リスクを把握できます。
特許リスクは、もはや1つの技術や1社だけにとどまりません。特に半導体・AI産業では、特許問題がサプライチェーンに沿って移動し、重要部品をめぐる紛争がグローバル顧客の市場アクセス問題へ拡大し得ます。
Samsung ElectronicsとNetlistの本件は、この構造を明確に示す事例です。
企業の特許戦略も、個別特許の登録と侵害対応を超え、重要部品、サプライチェーン、海外市場、ITC手続、ライセンス戦略を一体的に管理する方向へ高度化する必要があります。
Pine Patent 特許法律事務所は、半導体・AI・ソフトウェア企業の製品構造と海外サプライチェーンに基づき、特許ポートフォリオの構築、FTO調査、米国特許紛争とITC対応、技術・特許ライセンスおよび供給契約における知的財産リスクを検討します。
参考資料
- 米国国際貿易委員会、調査番号337-TA-1511の開始(2026年7月15日)
- Netlist、先端メモリ技術に関するSamsungとの戦略的提携(2026年8月5日)
- Netlist、2026年3月28日終了四半期のForm 10-Q
本資料は、公開されたITC資料、企業開示および発表に基づく一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の製品・契約・紛争に関する法律意見ではありません。実際の特許侵害の有無とサプライチェーン上の責任は、特許クレーム、製品構成、輸入・販売構造、契約条件および手続の進行状況によって異なる場合があります。